溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
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「あ、あのぉ……!」

 今日はまだお風呂にも入っていないし、何より足元に落っことしてしまった本が気がかりで仕方がない日和美(ひなみ)だ。

 超絶美形の、俳優もかくやといった風情の日本人離れした容姿の男性に抱き締められていると言うのに、日和美は驚きの余り取り落としてしまった足元の本にばかり気がいってしまう。

 幸い柔らかなラグの上に落下したから、本の角っこがへこんでしまったとか言うことはないはずだ。でも、落ちた拍子に本が開いて、伏せられた形になっているのが非常に気になって。

(今すぐ直したい!)

 本好きならではの発想というか。
 日和美はとにかく本が傷むようなあれこれを嫌うところがある女性だった。

 書斎にしている寝室にいつも遮光カーテンが引かれているのだって、本を紫外線から守るためだ。

 図書館で借りてきた本も傷まないよう小さな袋に入れて持ち歩くし、友人なんかがしおりがないからと読んでいたページを開いてテーブルなどに伏せて置くのを見るのも好きではない。
 ティッシュでも何でもいいから挟んでー!っと心の中で叫んでしまう。

 そうしてそれは、当然今日買ってきたばかりの蔵書、『ある茶葉店店主の淫らな劣情』にも発動するわけで。
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