溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
立神(たつがみ)先生って……。何かこいつに言われるとやたら照れ臭ぇな)

 などと言うあれこれの本音をひた隠した信武(しのぶ)が、
「……お前、本当、本が好きなんだな」
 ややしてポツリと何とかそう口の端に乗せたら、「でなきゃ書店に就職なんてしませんよぅ」と日和美(ひなみ)が心底嬉しそうに目尻を下げる。

「あ。私ね、こう見えて司書の資格も持ってるんですよ?」

 ふふんと鼻を鳴らしてふんぞり返った日和美(ひなみ)に、「図書館員は狭き門だからな」と事実を述べたら盛大にため息を落とされた。


「お、おいっ」

(もしかしてこれは地雷発言だったのか?)

 あっちこっちの図書館を受けてみたけど全部落ちた、とか……そういうのかも知れない。

(いや、けどコイツ、俺に将来の夢を語ってきてた時、そんなこと一言も言ってなかったよな?)

 理由までは聞かされていないが、大学生の頃、山中日和美の就活先は本屋一択だった、と記憶している信武だ。

 その証拠にやはり。

「……バカですねぇ、信武さん。この町の図書館にはティーンズラブものが本屋さんほど充実していないの、ご存知ないんですかっ?」

 ボーイズラブに至ってはもっと少ない。

 当たり前だが新刊にだって、本屋にいた方がいち早く触れることが出来る。

 だから自分は最初から司書になろうだなんて気持ちは毛頭なくて、ターゲットを書店に絞って就活したのだ、と日和美が胸を張るから。

 信武は、(やはり俺の記憶は間違ってなかったな)とホッとしたのと同時、思わず笑ってしまった。

「日和美。お前、本当ブレねぇな」

 笑いながらクシャリと日和美の頭を撫でたら、途端
「そっ、その笑顔は反則ですっ!」
 言って、何故か日和美が真っ赤になった。
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