溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
 しばし顔を押しつぶされたまま、せめてもの抵抗に信武(しのぶ)を睨み上げてみたけれど効果はないようで。

 仕方なく日和美(ひなみ)は諦めた。

「しゃ、しゃっきにょ信武(しにょぶ)しゃんにょ仕草(しぎゅしゃ)表情(ひょぉじょ)ぎゃ……不破(ふゅわ)しゃんと(きゃぶ)ってドキッとしたきゃられしゅ。たらしょれらけのことれしゅ」

 自分では『さ、さっきの信武さんの仕草と表情が……不破(ふわ)さんと被ってドキッとしたからです。ただそれだけのことです』と告げたつもりだけど、ちゃんと伝わっただろうか。

 ――頬を押さえる手の力を緩めてくれないから上手く喋れないの、察してもらえませんかね!?

 この人、私に話をさせる気が本当にあるの?と思ってしまった日和美だ。


 それに正直な話、伝わっていてもいなくても日和美にとっては不利益しかない気がして。

 だって、伝わっていたら『私、信武さんにときめいてしまいました』と言う告白に他ならないし、伝わっていなかったら恥ずかしいのにもう一度言わされる可能性がある。

 そんなことを思いながら日和美がソワソワと信武を見上げたら、不意に頬を解放されて。
 ラッキー、逃げなきゃ!と行動に移す間もなく、即座に感極まった様子の信武にギュウッと抱きしめられた。
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