溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
 ひとり鎮痛剤を飲んで、ソファの上。土下座スタイルでうずくまってうんうんうなっていたら、不意に背中に温かな手が載せられて。

「――?」

 涙目で顔を上げたら、
「ほら、飲め。ちったぁー楽になるはずだ」
 そっと身体を抱き起されて、湯気のくゆるマグカップを手渡された。

「え? 何……で?」

「うずくまっちまうほど腹(いて)ぇくせにそばで待っててもちっとも俺を頼ろーとしてこねぇ。……結局俺から動いちまっただろーが。……ホントお前強情(ごうじょう)でムカつく!」

 吐き捨てるようにボソリと抗議されて。

 何が何だか分からないままに握らされた温かなマグカップから、ショウガの香りがふわりと漂う。

「こ、れ……?」

 ぼんやり問い掛けたら、
「ショウガ湯だ。俺は男だからよく分かんねぇけど……身体(あった)めたら痛みが緩和されるんだろ?」
 ムスッとした顔でそう返された。

 どうやら信武(しのぶ)。冷蔵庫にあったチューブ入りのショウガと、棚にあった蜂蜜でちょっぴり甘めのぽかぽかのショウガ湯を作って来てくれたらしい。

「ホントはカモミールとかローズヒップなんかも効くんだけどな。お前ん()にゃねぇだろ」

 さも自分の家にはあるみたいな口ぶりで信武がそう言うから、日和美(ひなみ)は何だかおかしくなってしまった。

 マグを手にしたままクスクス笑ったら「――書くのに色々勉強した結果だ。似合わねぇのは分かってるからそれ以上は(なん)も言うな」とどこか照れたように話を終わらされて。

 そんな信武の仏頂面(ぶっちょうづら)をショウガ湯からくゆる湯気越しに見詰めていたら、「早く飲め」と急かされる。

 ふぅーっと吐息をかけてひとくち口に含んだら、甘くて刺激的な液体が喉を通って胃に落ちていくのが分かった。

「ショウガ紅茶んが美味いけどさ、あれはカフェインが身体を冷やすから今日の所はそれで我慢しろ」

 これはこれで美味しいのに、信武はどうも色々言い訳をしたいらしい。

 きっと照れ隠しだ。

 そんな信武の優しさが、日和美にはとても嬉しかった。
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