溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***

 それを思い出した日和美(ひなみ)は、信武(しのぶ)に限って生理中だからと言う理由だけで自分を放り出すような真似はしないかな?と思い直す。

 寝室の扉前。引き戸に手を掛けた状態で信武を振り返ると、日和美はニコッと微笑んでみせた。

 お腹が痛いからうまく笑えていない気がしたけれど、そんなことはこの際どうでもいい。

「えっと……そんなに気を遣ってもらわなくても大丈夫です。忙しい時に移動時間が出来ちゃうのってもったいないですし……別に無理して戻っていらっしゃらなくても」

 信武は、書くのは自宅が中心だと言っていた。
 ここ数日、仕事をしにアパートを出るのだって、別にどこかへ出勤しているわけではなくて、自宅へ執筆(しごと)をしに戻っているだけらしい。

 そんな話を彼から聞かされていた日和美は、忙しい時なら尚のこと。行ったり来たりする時間がタイムロスになるのではないかと思って。

 日和美だって一人前の大人の女性だ。生理痛だからってひとりで過ごせないわけじゃない。

 このところずっと不破(ふわ)なり信武なりがいてくれたから(どちらも同一人物だけれど)ちょっぴり寂しく感じてしまうだけ。

 まぁ本音を言うと夜中でも何でもいいから戻って来て欲しい。
 最悪朝帰りでも構わないから朝食くらいは一緒に食べられたら幸せだ。

 そんなことを思ってしまう程度には誰かと――というより彼といることに馴染み過ぎてしまっている自分に気が付いて、日和美は心の中、一人苦笑する。

 笑顔がちゃんと取り繕えないのは、何も生理痛のせいばかりではなかったのかもしれない。
< 156 / 271 >

この作品をシェア

pagetop