溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
 日和美(ひなみ)の精いっぱいの虚勢に、信武(しのぶ)は不機嫌そうに瞳を(すが)めると、
「そういう気遣いは俺のこと必要(いら)ねぇって言われてるみたいでムカつくから今後一切するな。真夜中だろうが午前様だろーが絶対(ぜってぇ)帰ってくっからドアチェーンだけは閉めずにおけ」

 吐き捨てるようにそう言うと、信武が「この話は終わり」とばかりにくるりと背中を向けて冷蔵庫を開けた。

 日和美はそんな彼の背中を見遣りながら「暴君……」とつぶやいて――。

 でも、言葉とは裏腹。
 口元は自然とほころんでいた。


***


 朝食はトーストに目玉焼きとウィンナー、それから冷蔵庫に入っていたトマトをスライスしただけのサラダと言う、何だか喫茶店のモーニングみたいなメニューだった。

「すまねぇな。このぐらいが俺の限界だ」

 冷凍庫を開ければ日和美が色々ストックしている常備菜があるのだけれど、それをどう使っていいのか、またそもそも使ってもいいのか自体分からなかったのだろう。

 冷蔵庫を開けて、とりあえず目についたものをかき集めたみたいなラインナップに、だけど日和美の心はほわりと温かくなった。

「私、時間ない時はトーストにバター塗っただけとかやっちゃいますよ」

 リビングのローテーブル前。
 信武が並べてくれた朝食を前にいただきます、をしながら言ったら、意外そうな顔をされる。

「日和美が?」

「はい、私が」

 ここ最近は信武(や不破(ふわ))がいてくれたからちゃんとした朝食を摂っていたけれど、一人の時なんてそんなものだった。

 下手したら栄養補給のゼリーをチューッと吸ったら終わり、とか……そんな日だってあったくらいだ。
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