溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
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 信武(しのぶ)に朝食の支度(したく)をしてもらった日和美(ひなみ)は、その流れで結局昼食用のお弁当を作り損ねてしまった。
 それで、行きがけにどこかでお昼ご飯を調達しなければいけないな……と思っていたのに、ぼんやりしていてそのまま職場にたどり着いてしまった。

(習慣って怖いっ)

 いつも何だかんだ言いながらお昼に食べるものは家でちゃっかり準備して持ってきていたから、行きしなに買うという感覚自体が抜け落ちていて。

 生理痛は鎮痛剤のお陰か大分緩和されているけれど、集中力は落ちているらしい。

 今日は昼休み、どこかでお弁当を買うなり食べに出るなりしなければいけなさそうだった。


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 比較的緩やかに時間が流れた午前中。
 先輩たちは混んでいる時間帯(ランチタイム)は避けたいから、と言う理由で昼休憩は遅めが人気だ。

「先に行っておいでよ」

 それで必然的。新入りの日和美がみんなから口々に正午過ぎのお昼休憩を勧められて。
 日和美は十二時五分にお財布を手に外へ出た。

 薄手のスプリングコートを羽織って出てきたのはお腹を冷やさないためだけれど、それでも今日はちょっぴり風が冷たくて肌寒い。

 建物と建物の間を通り抜ける風がひんやり感じられるのは、恐らく太陽が雲間に隠れてしまっているからだろう。

 ふと見上げた空は、厚めの層積雲(そうせきうん)に覆われていて、太陽が顔を出すチャンスは万に一つもなさそうに思えた。
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