溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
 店舗外へ出された立て看板に『喫茶まちかど』と書かれたその喫茶店は、落ち着いた雰囲気の昭和レトロな店舗だ。

 日和美(ひなみ)自身バタバタしていてまだ一度も入ったことはないのだけれど、実は学生時代からいつか行ってみたいなと思い続けている憧れのお店だったりする。

信武(しのぶ)さんと一緒なら入れちゃうかな?)

 小ぢんまりとした店内にはカウンターに五席、二人掛けのテーブル席が三つと、如何にも常連さんに支えられていますという雰囲気で。初めて入るお店としてはちょっぴり敷居が高いな?と思ってしまった日和美だ。

 始終色んな人が出入りしているような、ムーンバックスコーヒーや、サリーズカフェ、ヨネダコーヒーみたいな大きめのチェーン店ならまだしも、マスターと奥さんが二人で経営しているようなこの喫茶店は、日和美にとって扉を開けること自体難易度が高い。

 扉上に取り付けられたカウベルみたいないぶし銀のドアベルを響かせることが出来るのは、もう少し先かな?と思う。

 窓ガラスの色味のせいだろうか。
 外から見るとセピア色に見える店内は満席だった。

 日和美は入ったことがないから分からないけれど、案外ランチセットなどがあるのかもしれない。

「――あ、れ?」

 ふと窓近くの二人掛けのテーブル席につく男女を見た日和美は、思わず声に出してつぶやいていた。

 左手に男性、右手に女性。
 窓に横顔を向けて親し気に話している【二人ともに】日和美は既視感があった。

信武(しのぶ)さんと……えっと……」
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