溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(15)しばらく一人にしてください
 日和美(ひなみ)はまだ勤め始めて半年経っていない。
 有給休暇だって取得できる状況ではないので、どんなにしんどくても頑張るしかないわけで。

 日和美は職場に戻るなり一旦トイレに駆け込むと、手洗い場でバシャバシャと顔を洗った。
 化粧が落ちてしまったけれど、もともとそれほど濃いメイクを施しているわけではなかったので、口紅とアイシャドウを塗り直したらそこそこの体裁は保てた。
 ただ、ごしごしとこすってしまった目の周りが赤くなっているのはファンデーションをはたいても誤魔化しきれなくて。

 そもそも目自体がアルビノの白うさぎみたいに赤くなってしまっている。

(酷い顔だな……)

 結局お昼ご飯にと買ったものも、道端に落っことしてしまって何も食べるものがない。

 だからと言ってお腹が空く気配もなかったので、休憩時間中は事務所のテーブルに顔をうつ伏せてじっとうずくまっていた。

 途中、出かける際にポケットへ突っ込んでおいたスマートフォンがブルルッと震えて何かの通知を知らせてきたけれど、恐らく短めだったからメールか何かだろう。

 確認する気になれなくて無視していたら、しつこいくらいに何度も何度も震えるから。

 日和美はノロノロと身体を起こすと、ポケットからスマートフォンを取り出した。

 どうやらメッセージは全て信武(しのぶ)からのものらしく、通知一覧に『どこにいんの?』とか『近くまで来たからちょっと顔見たいんだけど』とかそんな文言が連なっていた。

(近くにいるのなんて知ってる……)

 ぼんやりそんなことを思って、そのままメッセージアプリを開かないままスマホをテーブルに転がして。

 半ば無意識に一人悪態(あくたい)をついた。
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