溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
 日和美(ひなみ)は、メッセージは未読のままに別のアプリ――Webブラウザを開くと、検索ワードに『立神(たつがみ)信武(しのぶ)』と入力して先日見たWebpedia(ウェブペディア)の画面を再度開いてみる。

 前に見た時は彼が作家なこと、代表作にどんなのがあるのかということ、家族に有名人がいることなんかをさらりと見ただけで、その下に連なる詳細までは読み込んでいなかったから。

 ふと興味が湧いて、生まれ年からでデビュー年月日を差し引いてみたら、十六で。
 日和美は思わず「嘘でしょ……」とつぶやいていた。

 十六歳の立神信武青年が書いた、大手出版社『丸川書店』主催の『マルカワ雷撃文庫』の新人賞大賞受賞作品は、もちろんエッチなものではなくて。

 今は絶版になっていて読めないみたいだが、『ひとりぼっちの竜王と、嫌われものの毒姫さま』という、いかにもファンタジーチックなタイトルの作品だった。

 ペンネームもその頃は「リシュエール」という、全く違うものを使っていたらしい。

 前に上の方に書かれていてちらりと見た主な作品一覧にはファンタジー要素を含んでいそうなものは一冊もなかったのに、デビュー作とのギャップに驚いてしまった日和美だ。

 どうして立神信武として発表した作品からは、ファンタジー色が消えてしまったんだろう。

 試しにウェブペでリシュエールで検索し直してみたけれど、それらしき作家さんはいなかった。

 でも――。
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