溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(くっそ、惜しいわ)

 いつか絶対ありのままの日和美(ひなみ)を自分の前にさらけ出させてやる!と目論んでいるとか言ったら、彼女はおびえるだろうか。

 【昔】、日和美からだらけた日々の話を照れ隠しみたいに聞かされて、そういうヒロインを主役にするのも悪くねぇなと思ったのを信武(しのぶ)は鮮明に覚えている。

 そんな日和美のだらりとした姿を見てみてぇなと無意識に思って、思わず苦笑したことも。

 ただ、その時に書いていたものにジャージを着たような女の子が出てくる設定がなくて、【何年間も】保留のままできてしまった。

 だが、【近々】新作でやっと実現できる予定だ。

 「このヒロインはお前がモデルなんだぜ?」とか教えたら、日和美はどんな反応をするだろう。

 考えただけで彼女の反応が楽しみでぞくぞくする。

 今、マンションで、缶詰め状態で仕事をさせられていてもモチベーションが保てているのは、まさにそのためだ。


「あの、立神センセ?」

 長い間物思いに(ふけ)り過ぎていたらしい。

 【媚びるように】小首を傾げられて、信武はまだ眼前に多賀谷がいたんだっけと思い出した。

 何となく(面倒くせぇな)と思ったのはおくびにも出さず、頬を上気させた多賀谷に、心の中で小さく吐息を落とす。

(そういやぁ、前に対面した時もこんなだったか)

 信武にとってこういうことは割と日常茶飯事なので、あからさまに異性として見られたからと言って、何も感じたりはしない。

「すみません。このところ執筆に追われて寝不足だったものですから、少しぼんやりしてしまいました」

 わざと眉根を寄せて同情を誘うような表情を作って淡く微笑めば、多賀谷が「まぁ! それは大変です」と心配そうな顔をする。
 その上で、なのに何故いま、出歩いているんだろう?と至極まともな問いにぶち当たったらしい。
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