溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
「ほら、責任取ってやるからとりあえず身体起こせ」

 日和美の肩に軽く触れると、リビングに置かれたローテーブルにしなだれかかった日和美(ひなみ)のすぐ背後に陣取って。

 日和美がふらふらしながらもテーブルから身体を起こすと、大きな手で日和美のショートボブを柔らかな手つきでかき回しながらドライヤーを当ててやる。

 ゴーという熱風とともに、日和美の短い髪の毛はすぐに乾いてサラサラになった。

「オイ、乾いたぞ。布団……」

 ドライヤーをしている時から怪しかったけれど、日和美はますます眠気に勝てない様子で、信武(しのぶ)が話しかけても目なんてちっとも開いていない。

 信武はそんな日和美を見て、彼女の背後でふっと口元に小さく笑みをたたえると、眠りかけている日和美の足をローテーブル下から引きずり出して抱き上げた。

 そのままつま先で器用に寝室との境の(ふすま)を開けると、日和美をそっと布団に横たえてやる。

信武(しにょぶ)しゃ、ありあとぉ……」

 恐らく「信武さん、有難う」と言ったのだろうが、最早ちゃんとした言葉にもなっていないのが、信武には可愛くて見えて仕方がない。

 そもそも日和美がこんなにヘロヘロになってしまった原因が自分と萌風(あの女)への嫉妬心からだと思うと、ぐったりしている彼女には悪いが愉快でたまらないのだ。

 二度、三度日和美の頭をふわふわと撫でてから、薄っすらと開いたままの柔らかな唇に軽く触れるだけの口付けを落とすと、信武はグッと自分の欲望を押さえつけて立ち上がった。

 日和美はまだ生理中だ。
 抱くわけにはいかない――。
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