溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***

 夕飯がまだだった信武(しのぶ)がとりあえず(なん)か食うもん……と思って台所へ行くと、アイランドキッチンの天板の上に皿が乗っていて、レンコンのきんぴらやおからの炒り煮、酢豚などがワンプレート料理になってふんわりとラップがかけられていた。

 炊飯器は保温後四時間を現す「4H」を表示していて。
 今の時刻から換算するに、日和美(ひなみ)の帰宅時間の十九時頃に合わせて炊かれたご飯だと分かった。

 それを茶碗によそって、プレートを電子レンジで温めたらいいだけにしてある心遣いが有難くて。

 ラップがかかったままの皿を電子レンジに入れながらふと視線を転じたら、日和美も同じものを食べたのだろう。
 今レンジに入れたばかりのプレートと同じ白い皿と、信武のとペアになった夫婦茶碗(めおとぢゃわん)が綺麗に洗われて流しの水切りかごに立てかけられていた。

 そう言えば、昨夜はそういう生活の気配が全く感じられなかったから、もしかしたら日和美は食事も喉を通らないくらい思い悩んでいたのかも知れない。

 そう思い至った信武は、日和美にちゃんと萌風(もふ)もふとの関係を話さねぇとな、と嘆息して――。

(あー、けどなぁ)

 そうすると必然的に打ち明けねばならないことが芋づる式にズルズルと出てくることを思って、軽くめまいを覚えてしまう。

 日和美は一連のあれこれを全部打ち明けた時、自分のことをどう思うだろうか?

 そんなことを取り留めもなく考えて、無意識に吐息が(こぼ)れ落ちる。

 と、電子レンジが仕上がりの音楽(アラーム)を鳴らしてきて、信武は頭を軽く振って気持ちを切り替えた。

(ま、なるようにしかなんねぇだろ)

 いずれにしても、信武は折角手に入れた日和美を手放すつもりはない。
 そこだけはっきりしてりゃ、十分だろ……と思った。
< 186 / 271 >

この作品をシェア

pagetop