溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***

「……やっぱり……何もないみたいです」

 一人空想の世界に旅立っていた日和美(ひなみ)は、そんな声でハッと我に返る。

 スーツの裏ポケットまで探って何か自分に関する手掛かりはないかと調べてみたらしいふわふわさんだったけれど、分かったのは服のメーカーが銀座の名を冠した老舗テーラーのお品だと言うことぐらい。

「僕は……一体どうすればいいんでしょう」

 迷子です、と交番に行ったところで「は?」という反応をされそうな気がする。

 もちろん、少し落ち着いてから警察には届け出た方が良さそうだけど、今はそれよりも――。

「あ、あのっ。いつまでも〝道路(こんなところ)〟で立ち往生も何ですし、もし宜しければとりあえずうちにいらっしゃいませんか? お茶でも飲んでゆっくり気持ちを落ち着けたら、何か思い出せるかも知れませんし」

 日和美の提案に、ふわふわさんは瞳を見開いて。

「で、でも……ただこの場に居合わせただけの日和美さんにそこまでして頂くのは」

 申し訳なさそうに視線を落とすから、日和美は思わず彼の方へにじり寄ると前のめりになって畳み掛けていた。
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