溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***

「茶でいいか?」

「あ、はい」

 リビングダイニングに日和美(ひなみ)を通して半島型(ペニンシュラ)キッチンに立った信武は、日和美をキッチン前に二つ並べ置かれたスツールのひとつに座らせた。

 キッチンに対面するような形でカウンターになっているそこへ腰かけて貰えば、作業をしながらでも日和美の顔が真正面から見られる。

「あ、あのっ、信武(しのぶ)さん。お茶なら私が……」

 日和美ならそう言うだろうことは想定の範囲内。

 キッチンを回り込んで信武の方へ近付いてきた日和美に、
「だったらどれがいいか選んでくんね?」
 そう言いおいて、信武は《《わざと》》先日入手したばかりの贈答品『京都緑茶飲みくらべセット』をカウンターの上へ置いた。

 先日日和美に萌風(もふ)もふの『ユラユラたゆたう夏祭り〜金魚すくいですくったふわふわドS王子様からの濡れ濡れな溺愛が止まりません!〜』(通称『ゆらたう』)の初版本をプレゼントした信武だったが、実はそれを〝萌風(もふ)〟から受け取った際、袋の中には本以外のものも沢山入っていた。

 その中のひとつがコレ――『京都緑茶飲みくらべセット』だった。

「わぁー。信武さんもコレ、持ってらしたんですね。実は私も先日萌風(もふ)もふ先生にファンレターと一緒に……」

 そこまで言ってハッとしたように信武を見詰めると、「もしかして」と瞳を揺らせた日和美だ。

 信武は、まさにこの瞬間を待っていた。

 萌風(もふ)と自分に接点があることは、日和美にも知られている。
 日和美が萌風(もふ)に贈ったはずのこれが信武の住居にあることを見せたいがために、日和美をアパートからマンションへ連れ出す必要があったのだ。

「お前が喫茶店で俺と萌風(もふ)を見かけたって日があっただろ。そいつはあの日に渡された(モン)だ」

 日和美に渡した紙袋の中に、『ゆらたう』の初版本と一緒に入れられていた中のひとつだよと付け加えたら、日和美が泣きそうな顔になる。
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