溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
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「あの日、朝と晩で信武(しのぶ)さんが別人になっててめっちゃ驚きましたけど……そんな理由があったんですね」

 得心したようにホゥッと吐息を落とした日和美(ひなみ)に、信武は心底安堵(あんど)する。

「なぁ。茉莉奈(まりな)とのことは誤解が解けたって思って構わねぇよな?」

 森野リス子(ライバル)の本をカウンターに置いて、日和美のすぐそば。
 吐息もかからんばかりの距離で念押しするように彼女の顔を見下ろしたら、途端ムムッと唇をとがらされた。

「ずっと思ってたんですけど……信武さんと従姉(いとこ)さん、何だかすっごく親密な雰囲気ですよね」

「は?」

 次いで当たり前のように漏らされた不満に、信武は思わず間の抜けた声を返さずにはいられない。

「どこが」

 問えば、「お互いに呼び捨てで呼び合っているところとか」と、日和美がゴニョゴニョと語尾を(にご)らせるから。

「いや、待て。だってそりゃあ――」

「わ、私だって! 従姉弟(いとこ)同士のお二人が長い年月の中で何となくそうなっちゃってるってこと、頭では分かってるつもりです! でも……胸の辺りが何だかモヤモヤしちゃうんだから仕方ないじゃないですかっ」

 我慢出来ないみたいに吐き出して、指先が白くなるぐらい強く信武の服を掴んできた日和美が、いやいやをするように信武の胸元へ額を擦りつけてくる。

「私……一応信武さんの彼女なのに――」

 そうしながら、ポツンと自信なさげに日和美が付け加えてくるから、信武は我慢出来なくなってそんな彼女を腕の中にギュッと抱き締めた。

「なぁ、一応って何だよ。お前が! 正真正銘俺の彼女だろーが」

 そのまま当然の流れみたいに日和美のひざ裏をすくい上げれば、急に横抱きに(かか)え上げられた日和美が驚いたように手足をジタバタさせる。

「あ、あのっ、信武さんっ!? いきなり何っ!?」

 信武はそんな日和美を落とさないようギュッと強く抱き直すと、彼女の抗議なんてお構いなしに歩き出す。

「そんなに気になるなら日和美も俺のこと、呼び捨てにすればいい」

 茶を入れるとか言いながら、コンロにやかんすら掛けていなかったことを、我ながら《《でかした》》と思いながら。

 信武は日和美を見下ろしてニヤリとした。
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