溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(19)もう待てねぇよ*
 信武(しのぶ)に抱かれて日和美(ひなみ)が連れ込まれた先は、どうやら寝室のようだった。

 モノトーンを基調とした広い部屋には、まるでそこの主のように大きなキングサイズのベッドがあって。
 ヘッドボード側の壁面に、枝葉を伸ばした大樹の根元で犬が楽しそうに走っている絵柄のアートパネルが飾られていた。

 ベッド横へ置かれた半円型のサイドテーブルには木製の折り畳み式フォトフレームが置かれていて、片側にふわふわの茶色い毛玉が写っているのが見えたから、恐らくルティシアの写真が入れられているのだろう。

 そのフォトフレームはV字型に開いて二枚の写真が向かい合わせで入れられるようになっていたのだけれど、信武に抱かれた日和美(ひなみ)からは、もう一方に入った写真は死角になっていて見えなかった。

 ベッドへ寝そべって右手側にスライドドア全面が鏡張りになったウォークインクローゼット、左手側がバルコニーへと続く大きな掃き出し窓になっていて。

 カーテンの閉まっていない室内には、ほぼ真円に近い月の光が差し込んで、薄らぼんやりと明るかった。

 まるでホテルの一室のようなスタイリッシュな雰囲気に気圧(けお)されて居たら、不意に身体が柔らかなスプリングの上へ降ろされて。
 ひんやりとしたシーツの感触に、一気に頭がクリアになった日和美だ。

「あ、あのっ」

 ベッドへ降ろされるなり自分の顔のすぐ両サイドに腕をついた姿勢で、当然のように信武が上へ伸し掛かってくるから、日和美はソワソワと視線を彷徨(さまよ)わせながらすぐ眼前に迫る彼を見上げずにはいられない。

「んー?」

 なのに日和美の戸惑いなんてどこ吹く風。

 信武は何ら悪びれた様子もなく日和美の上へ影を落としてくる。

 信武に、馬乗りになられた状態の日和美は何故こんなことになっているのか分からなくて。
 懸命に彼の胸元へ両手を突っ張って信武を押し戻した。

「な、んで……こんなことになってるんですかっ」

 そうしながら何とかそう不満を述べたら、信武が「何を今更」と、日和美の片手を(とら)えて自分の口元へもっていく。
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