溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***


 結局口を開くたびにいつもの癖。
 つい〝信武《《さん》》〟と呼び掛けてしまうから。
 今や日和美を隠すのはブラジャーとショーツのみになってしまった。

 あまりの恥ずかしさに涙目になりながら信武を睨みつけてみたけれど、今の信武にはそれさえご褒美らしい。

「ストッキングを脱がせた時にも思ったけどさ。恥ずかしがるお前を見んの、すげぇ《《クる》》な」

 言って、わざとらしく。
 大きく盛り上がった己の股間を、スラックス越しに二度、三度……。いやらしく撫で上げた信武の血管の浮いた手を見てしまった日和美は、その駄々洩れな色気にあわあわと唇を戦慄(わなな)かせた。

「や、あのっ、私っ。まだ全然心の準備が出来てなくてっ。……だからっ、そのっ! も、もうちょっと待って欲しいの。……お願い、(しの)……」
 
 危うくまた「信武さん」とよびかけそうになって、日和美は慌てて口をつぐんだ。

「なぁ、それ、今更じゃね? 俺が一カ月近くお預け食わされてんの、お前だって知ってんだろ」

 確かにその通り。

 信武のことを好きになったことを認めた日。
 日和美は月のものに見舞われてこれ幸いと夜のお勤めを放棄した。

 あれからひと月あまり。

「――さすがにもう待てねぇよ」

 生理が終わった頃、日和美にとっては幸いと言うべきか。
 今度は信武が忙しくなってアパートに戻って来られなくなった。それはもちろん日和美のせいではなかったけれど、彼が忙しくなる前のチャンスをつぶしたのは(まぎ)れもなく自分だったから。

 日和美はグッと言葉に詰まって――。


「で、でも信武さん! 私っ」

 そのくせ苦しまぎれに何か言おうとしたのがマズかった。

 またしても信武さん、と呼び掛けてしまった日和美は、信武にククッと喉を鳴らされた。

「上と下、どっちが先?」

 今までは信武がどれをはぎ取るか勝手に決めて、否応なく身ぐるみを剥がしてきたくせに。

 どちらを脱いでも恥ずかしいというこの段になって!

 嬉し気に目を(すが)めた信武が、「お前に選ばせてやるよ」と言ってきた。
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