溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
「なぁ日和美(ひなみ)。感じてんの、俺にバレるの、イヤ?」

 今自分からはぎ取ったばかりの下着を手にしたままの信武(しのぶ)から、挑むような視線を(ともな)ってそう問い掛けられた日和美は、わざわざそんなことを聞いてくる信武のことが憎らしくなってキッと彼を睨みつける。

「か、感じてなんかっ」

「下着がこんなに濡れてんのに?」

 別にクロッチ部を見せつけられたわけではないし、どの辺りがどう濡れていると言われたわけでもない。
 だけど、恐らく秘部に触れていた箇所がぐっしょりと濡れているであろうショーツを手放さないままに告げられた言葉は、日和美を追い詰めた。

 服やストッキングやブラジャーなんかは日和美から脱がせるなり即座にベッド下へ落としたくせに。
 信武がショーツに関してのみそうしなかったのが、日和美にはとても意地悪に思えた。

「信武《《さん》》はすっごくすっごく意地悪です!」

 もう脱ぐものなんて何もない。
 一糸まとわぬ姿だと言うのも手伝って、日和美はこれ以上酷いことはされないはずだと油断し切っていた。

 なのに――。

「日和美、すっぽんぽんになっちまったからって気ぃ抜き過ぎじゃね?」

 その通りだったのでグッと言葉に詰まった日和美だ。

「だ、だって……その通りじゃないですかっ。し、信武《《さん》》はもう十分満足でしょう? 私だけ丸裸にして自分だけ服着てるし。あ、貴方だけ恥ずかしい思いをしてないとか……物凄く不公平ですっ!」

 その言葉に深い意味なんてなかった。
 言うなれば売り言葉に買い言葉。
 自分だけ裸で、信武はしっかりと服を着込んでいる現状が、たまらなく恥ずかしいと思ったからそう言ってしまっただけ。

 なのに。

「あー、そっか。日和美《《ちゃん》》はそんなに俺の裸が見たかったのか。気付かなくて悪かったな」

 目を細めてククッと笑う信武はとても嬉しそうで、日和美はその笑顔に何故だかゾクリとさせられる。

 きっと信武は服を脱ぐことなんて何とも思っていない。
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