溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
(20)事後のあれこれ
 信武(しのぶ)は顔を伏せてこちらを見ようとしてくれない日和美(ひなみ)をそっと抱き上げて風呂場へ向かいながら、「あれはそういうもんじゃねぇんだよ」と説明した。

 初心者の日和美が失禁と勘違いしてしまったのは仕方がないことなのかも知れないが、女性が感じた時なんかに起こる現象で、珍しいことではないのだと説明したら「それって……『誘いかける蜜口(みつくち)』に書いてあったやつですか?」と腕の中から《《ぽやんとした顔で》》見上げられた。

 先程の情事の余韻が、身体の方はもちろん精神の方にも作用しているんだろう。

 日和美がしっかり覚醒してしまったなら、こんな風に何の覆いもなく信武の腕に抱き上げられている現状を容認しなかったはずだから。

 何せ日和美だけじゃなく、彼女を抱き上げている信武自身も素っ裸なのだ。
 
 スライドドア全面が鏡面になっているウォークインクローゼット前を通過しながら、信武は日和美の視線がそちらへ向かわなくて良かったと内心ホッとする。

 日和美だって自分の裸は見慣れているだろうけれど、臀部(でんぶ)や局所、下肢のあちこちに破瓜(はか)の痕跡を残した姿は、恐らく刺激が強過ぎるはずだ。

 信武はなるべく日和美が覚醒しきる前に、風呂場でそういうものを綺麗に洗い流してやりたいと思った。

 ついでにその後は自分だけサッと身体を清めてから、日和美にはゆっくり湯船に浸かるよう言い渡して、寝室のシーツなども気づかれずに綺麗なものへ整え直しておきたいとも考えていたりする。

 日和美の初体験が、彼女のなかで負の記憶と結び付いてしまいそうなことは事前に取っ払っておいてやりたい。

 お漏らし疑惑なんてその最たるものではないか。
< 244 / 271 >

この作品をシェア

pagetop