溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***

 結局信武(しのぶ)の懸念通りたっぷり十数分後。
 リビングダイニングに戻ってきた日和美(ひなみ)は、ちゃっかりと持参してきたマイパジャマに着替えていた。

 下着を身に着け直したり、服を着替えたりするだけにしてはやたら遅かったのは、気持ちを切り替える時間が必要だったんだろう。

(ま、俺も同じだったから《《そこは》》問題ねぇんだけど。――Tシャツを脱がれちまったのはやっぱ納得いかねぇなぁ。……正直(ぶっちゃけ)すっげぇ良かったのに)

 なんて信武が真顔で思っていたら、「し、のぶ……がせっかく服、貸してくれたのに……。一度そでを通したくせに勝手に脱いじゃってごめんなさいっ」と日和美が先手を打って謝ってくる。

 どうやら気持ちがダダ漏れで、我知らず不機嫌そうな表情(かお)になっていたらしい。

 〝信武〟と呼び捨てることにまだ抵抗があるみたいで、名を呼んだ時ぎこちなく詰まるのがめちゃくちゃ可愛いじゃねぇかと思ってしまった信武だ。

 そもそも彼シャツ案件に関しては、男としての勝手なロマンだ。

 日和美が最初から自前の服を着られるようにしてやれなかったのは、配慮が足りなかった信武のせいだし、ある意味日和美は何も悪くない。

 なのに信武の厚意を無下にしたと落ち込む様が、何とも律儀な日和美らしくて好もしいではないか。

 信武はそんな日和美を前に〝愛しい〟と言う気持ちが溢れて止まらなくなる。

 そればかりか――。

 信武のすぐそば。
 しゅんと項垂(うなだ)れてつむじをこちらへ見せた日和美の様子が、イタズラを見付けられた時の愛犬ルティシア(ルティ)彷彿(ほうふつ)とさせるから、信武の胸は先程とは違った意味でキュンと甘く(うず)くように痛んだ。

「……気にすんな」

 ポンポン……と、そんな日和美の頭を優しく撫でながら、信武は部屋の片隅に安置された愛犬の遺骨が入った箱を見遣る。

(ルティ。もうちょい落ち着いたら……お前とよく散歩に行った桜並木近くのペット霊園に安置してやっからな)

 恐らくそのとき、自分の隣には日和美がいて、信武が大切にしていたルティに、一緒に手を合わせてくれているだろう。

 だからその時まで――。

 今はもう少しだけ、骨壷を手放せない自分を許して欲しい。
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