溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
***

 日和美(ひなみ)が着ている薄桃色のダブルガーゼの上下は首元がVネックになっていて、全体に大ぶりのサクランボ柄が何個も散りばめられていて。
 薄手の長そで長ズボンなところが、五月半ばの今頃のシーズンには丁度良さそうに見えた。

 明るい色味(いろみ)のパジャマを着た日和美に対して、信武(しのぶ)はダラッとした、モカブラウンの薄手亜麻布(リネン)の上下を身に着けている。

 別に並んでも全然ちぐはぐではないけれど、いつか日和美とペアものの部屋着を買うのも悪くねぇな……なんて思ってしまった信武だ。



「なぁ、いつまでもンなトコに突っ立ってないで……さっさとこっち来いよ」

 ホットミルクを飲んで歯磨きを済ませて。

 さぁそろそろ寝ようか……とふたり連れ立って寝室まで来たはずなのに、気が付けば寝室入り口で固まったみたいに動かなくなってしまっていた日和美に、信武が苦笑交じりで誘い掛ける。

 寝室からは先程の情事の痕跡はすっかり消し去られていたし、何なら部屋の換気だってバッチリ済んでいたのだけれど。

「あ、あの……でも」

 ここへ戻って来ただけで、初めて経験した刺激的なあれやこれやを思い出したんだろうか。
 日和美が戸惑いに揺れる瞳でベッド前まで進んでいた信武を見詰めてくる。

 信武は日和美に気付かれないよう小さく吐息を落とすと、立ち尽くしたままでいる彼女の元まで戻って、所在なげに降ろされたままの日和美の手を取った。

 部屋の電気は先程までと違って、シーリングライトに至るまで《《わざと》》煌々と灯してある。

 薄暗い雰囲気のままだと、日和美が逆に恥ずかしがる気がしたからだ。

「今日初めてだったお前相手に、これ以上無理させる気はねぇから安心してこっち来い」

 言外に今夜はもう何もしないと告げたら、日和美がほんの少しだけ身体から力を抜いたのが分かった。

「ホントに……今夜はもう何もしない?」

 それでもすぐそばに立つ信武を、(うる)んだ瞳で(いぶか)るみたいに見上げてくるから。

 信武は思わずククッと喉を鳴らした。

「まぁあれだ。お前がして欲しいっちゅーんなら別だけど……?」

「し、して欲しくありませんっ!」

 真っ赤な顔をして日和美が唇をとがらせるのが可愛くて思わずその唇をギュッとつまんでしまった信武だ。

信武(しにょ、ぶ)っ。(いひゃ)いっ」

 そんなやり取りのお陰だろう。

 日和美がやっと緊張を解いてくれて、ベッドに近付いてきてくれた。


 と――。
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