溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
「あ、あの……、日和美(ひなみ)さんっ?」

 いきなりカウンターを回り込んできて、ガシッと手を握るなり歩き出した日和美に、ふわふわさんの戸惑った声が掛かる。

「すっごぉーくお腹が空いたので、歩きながら話しましょう!」

 だけどエッチな作品大好き!の秘密を守るためなら、いつもより少しばかり大胆になるくらい何て事ないわ!と思えてしまった日和美だ。


 日和美に手を引かれて驚きながらも、ふわふわさんはちゃんと日和美が言ったことを考えてくれたらしい。
 背後から、「呼び名なんですけど……日和美さんが呼びやすい名前を付けて頂いてもいいですか?」と、こちらの様子を(うかが)うような声が掛かる。

 (そりゃあ、自分の名前はおろか、何もかも分からなくなってしまったふわふわさんに、いきなり仮の名前を考えろだなんて……確かに酷な話だわっ)と反省した日和美だ。

 ここはもう、お言葉に甘えて図々しくいこう、と思って。

「じゃあ、〝ふわさん〟にしちゃいましょう。ほら、不埒(ふらち)の〝ふ〟に、破瓜(はか)の〝は〟で不破(ふわ)さん! 普通にありそうな苗字です!」

「フラチ? ハカ?」

 思わず言ってしまってから、キョトンとした顔で日和美の言葉を繰り返す彼を見て、(バカ日和美! 言葉のチョイス!)と思ったけれど後の祭り。
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