溺愛もふもふ甘恋同居〜記憶喪失な彼のナイショゴト〜
 お風呂上がりにもあまり抵抗なく不破(ふわ)へスッピンを見せてくれているところを(かんが)みるに、本人にも化粧で〝化けている〟と言う自覚はないらしい。

(素顔も可愛かったし……)

 少なくとも化粧前と化粧後で、劇的に印象が変わるタイプではないみたいだった。

 身長も小さめで小動物みたいに愛らしい雰囲気の日和美(ひなみ)は、少なくとも【今の】不破から見るとかなり好みのタイプに分類される。

(以前の僕の趣味嗜好は分かんないけど)

 そんなことを思いながら写真をめくって、裏に自分が書いたメモ書きに視線を落とした不破だ。

 これ、途中までは日和美の前で書いていた文言だけど、最後の一文だけは何だか本人には見られてはいけない気がして彼女が居ないところで後からこっそり書き加えた。

 ――『・ぼくに何かかくしごとがあるみたい?』

 〝ぼくに何か〟の後だけちょっとだけ文字の調子が変わって見えるのは、時間を置いて付け足したからだろう。

 不破は小さく吐息を落とすと、日和美が「絶対に入らないで!」と念を押しまくった和室への扉を眺めた。

 あんなに念押しされたら、逆に「開けてみて?」と誘われているのと変わらないではないか。
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