三番線に恋がくる
「あの、これ。よかったら!ハッカなんでスーッとして、スッキリすると思います!」

ノド飴を彼に差し出す。

「えっ……」

当然、戸惑った顔になる彼。
そりゃそうだ。
見知らぬ人間に飴を差し出されるなんて、大阪のオバチャンじゃないんだから。

「乗り物酔いの時、飴とかなめるといいって何かで聞いたことあって!しかも、これ、ノド飴なんで健康にいいですし。ハッカだからスッキリしますよ、…ってさっきも言ったか」

勢いが止まらず意味不明なことをペラペラ話続ける私。

そのときアナウンスが流れ、電車が駅に到着した。
彼が降りる駅だ。

「…え、あ、着きましたね!?もう大丈夫ですね!ご、ごめんなさい、私ったら変なおせっかいしちゃって」

ひー、もう。なんだこの不審者。私こそ降りて消えてしまいたい。

ノド飴を引っ込めようかとしたが、その前に彼の手がそれに触れた。
冷たい指先が、私の手のひらにあたる。

ドキッ…と胸が大きく跳ねた。

彼はノド飴を握ると、目を細めて笑った。

そして
「ありがとう」
とささやき、そのまま電車を降りていく。

「……っ」

電車の扉がしまり、またガタンゴトンと線路がリズムを奏でる。
私は扉に倒れるようにもたれかかり、深く大きい息を吐いた。
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