三番線に恋がくる
電車に乗り込み、彼の姿を探す。
すぐにいつも通りの姿を見つけた。
席に座り、読書をする彼。
毎日見ている姿なのに、彼を見ると胸がキュンと苦しくなる。

……どうしよう。
勇気を出して、おはようと言おうと思っていたけど、いざそのときになると動けない。

覚えてなかったり、迷惑になったらどうしようなんて不安だし。
それに、彼の邪魔をしたくない。

うつむいて本を読む姿も長い指も本当に綺麗で、その世界を壊したくない……なんて思ってしまうのだ。


「……あ」

ふと、彼が本から顔をあげる。
そして辺りを見渡して、私のところでその視線を止めた。
パタンと本を閉じて、立ち上がる彼。

これって……もしかして……

彼は揺れる車内を器用に歩くと、私の前で足を止める。

「おはよう。昨日は…ありがとうございました」

そう言うと、目を細めた優しい笑顔を浮かべた。
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