三番線に恋がくる
次の日の朝。
私は残ったキャンディのうち一粒を口に入れる。
気づけば残りは本当に少なくなった。
あと三粒だ。

弟たちは昨日のことを引きずっているのか気まずそうな顔。
でも私も許すつもりはない。
朝食の用意などはいつも通りこなしたが、特に彼らに声をかけたりはしなかった。

ひたすら無言で朝の支度を終えていく。
すると驚いたことにいつもより随分早く家を出ることができた。
なんなんだ。やればできるんじゃないか。
ガミガミ叱るより、一切話さない方がいいなんて。
腹立たしいを通り越して……むなしい。



「西園寺さん、今日どうしたの。調子悪い?」

電車の中。
いつも通り振る舞っているつもりなのに、東条くんは心配そうにそう訪ねてきた。

「え、ううん。大丈夫。ごめん、心配かけて……」

せっかくの東条くんとの短い時間なのに、暗い空気にするなんて勿体ない。

「……でも、その言い方だと何もないわけじゃないみたいだね。なにか悩み事?」

「それは……」

「言いたくないなら無理に聞かないけど、よければ話してみて。ちょっとはスッキリするかもしれないし」

「………東条くん、ありがとう。でも、本当に大したことないんだ。弟と喧嘩しただけ。てか、喧嘩ってより私が怒ってるだけ、みたいな……」

「でも怒るってことは、なにか理由があるんだろう?」

「うーん、ちょっと……」

さすがに東条くんからもらったキャンディを食べられたからだとは言いづらい。
私は曖昧にいい濁してごまかした。
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