三番線に恋がくる
でも、東条くんはちっとも呆れた顔なんてしていなかった。
優しい笑顔を浮かべ、私の頭を軽く撫でた。

「西園寺さんは、……頑張ってるんだね」

「………っ」

「いつも、いつも一生懸命に兄弟や、いろんなことに向き合っているんだ。……よく頑張ったね」

「と、うじょうくん… 」

なに。
なんだ、これ。
泣きそう。
東条くんの手の優しさに、かけられた言葉に涙が出そうだ。

だめだめ。こんな、他の人も大勢いる電車の中で泣いちゃ駄目。

だけど、……東条くんの鳶色の目が優しく細められているのを見ただけで、心が温かく満たされていくのを感じた。

「……う、ん」

気づけば声がこぼれ出す。

「うん、そう。……私、いつも私なりに頑張ってる。
私は偉くなんかない。いいおねえちゃんでもない。だってすぐ弟にイライラするし、キツいことも言うし。
でも、それでも……」

それでも、私なりにずっと頑張ってきたつもりだった。
うまくいかないときも、弟にイライラするときも。

「それでも、そう。私……頑張っていたんだ。きっと……一番そんなふうに言ってもらいたかったんだ……」

「そっか……」

「うん……」

東条くんがまた軽く頭を撫でるように触れた。
ほんの一瞬。
だけどすごく心地よかった。
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