三番線に恋がくる
次の駅についた。
何人か乗り込んでくる。

その中に杖をついたおばあさんがいて、席が埋まった車内で少し所在投げにしていた。
私も立っているので席を譲ってあげることが出来ない。

すると、彼がすっと立ち上がり、おばあさんに席を譲った。
おばあさんは笑ってお礼を言うと、席に座る。
彼も小さくおばあさんに微笑んだ。

(笑ったー!)

いや、そりゃ笑うだろという感じかもしれないけど。
でもさ、いつも1人で本を読んでいるあの人の笑顔を見る機会なんてそうそうないわけで。
だからこうして笑顔を見れるのは、とても珍しいことなんだ。

笑顔……
すごく優しそうで可愛い。
いつも本を読んでいるし、真面目でクールに見えることが多いけど、ああして笑うとちょっとあどけなくて、親しみやすい。
そんな顔も、好き。

それにああしてサラリと席を譲れるところもいいな。
今まで何度かああして譲るところを見ていた。
席を譲るのは時々却って迷惑じゃないかって躊躇してしまうこともあるから。
本当にすごく自然に振る舞える姿を尊敬してしまう。


彼は席を譲ったあと、そのまま扉の近くに立つと、また本を開いた。
その扉は、私が立っている場所の向かい側。
ハッキリ言って結構近い。
あんまりじろじろ見ているとバレてしまうかもしれない。

(ああっ、どうしよう。でもせっかく近いんだからやっぱり見たい!)
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