それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
どれぐらい時間が経っただろう。
グラウンドから聞こえる生徒たちの声が少し静かになった気がして私は時計を見る。
「16時半、か」
17時には文化祭が終わり、片付けに入る。
「そろそろ、戻らないとな……」
戻ってから、クラスメイトと普段通り接することは出来るだろうか。
――きっと無理だろうな。
「帰りたいな……」
本当は今すぐ家に帰って、一人きりになりたい。
けれど、美羽にも17時には戻ると伝えていたから、戻らないと心配するだろうし、なによりも片づけを放棄するわけにはいかない。
私は力の入らない足に精一杯の力を込めて、立ち上がった。
「あれ? 吉川?」
屋上を去り、手すりにつかまりながら階段をのろのろと降りていると、たまたま通りかかった先生が、階段の下から私を見つめた。
「先生……」
「どうした、何かあったか」
きっとひどい顔をしていたんだろう。
先生が心配そうに駆け寄ってきてくれたのと、耐えきれず階段にしゃがみこんでしまったのは同時だった。
「面談室まで歩けるか?」
「うん……」
普段とは異なり、ほとんど人のいない廊下を、黙りながらゆっくり歩く。
すれ違った数人の生徒の視線を感じたけれど、私は顔をあげずに、歩くことだけに集中する。
そうしないと、今にでも倒れてしまうとわかっていたから。
それぐらい、足に力が入らなかった。
「ほら、入れ」
「うん……」
扉を開けてくれた先生に、「ありがとう」と言いながら面談室へ入ると、私は一番近くにあった椅子に座った。
「どうした?」
「翼と、別れた」
俯きながら答える。
先生は驚いたのか、一瞬黙りながら、続けた。
「どうして……?」
「フラれた」
翼は「フッてくれ」と頼んだけど、最終的にフッたのは、彼だった。
「どうしてだろうな……」
ポツリとつぶやく。
「翼のこと、ちゃんと好きだったのに。ちゃんと好きだったはずなのに、当たり前のように、受け入れちゃったな、別れ」
あの時、別れ話をする翼に、「嫌だ」と言いながらしがみついていれば、今でも恋人同士だったのだろうか。
あの時、「私はまだ翼が好きだよ」と伝えていれば、今でも隣に翼がいたのだろうか。
――それは違う。
そんなことをしても、きっと何も意味が無かった。
そんなこと、翼も望んでいなかった。
「……大丈夫か?」
黙りこくってしまった私に、先生は心配そうに声をかけてくれる。
その声は、いつもとは全く違っていて、優しくて、柔らかくて、思わず私は顔をあげる。
すると、先生の真っ直ぐな視線とぶつかった。
ああ、そっか。だからか。
例え今日、翼との別れを回避できたとしても、きっとまた近い未来、同じことが起きる気がしたのは、そういうことなのかな。
“きっと畑中は、俺より沙帆のこと、きちんと見ているんだよ”
翼はああ言ったけれど、私、やっぱりそれは違うと思うな。
翼だって、先生と同じぐらい、私のこときちんと見てくれていたよ。
だって翼、私が自覚するよりも前に、私の気持ち、気づいていたじゃん。
グラウンドから聞こえる生徒たちの声が少し静かになった気がして私は時計を見る。
「16時半、か」
17時には文化祭が終わり、片付けに入る。
「そろそろ、戻らないとな……」
戻ってから、クラスメイトと普段通り接することは出来るだろうか。
――きっと無理だろうな。
「帰りたいな……」
本当は今すぐ家に帰って、一人きりになりたい。
けれど、美羽にも17時には戻ると伝えていたから、戻らないと心配するだろうし、なによりも片づけを放棄するわけにはいかない。
私は力の入らない足に精一杯の力を込めて、立ち上がった。
「あれ? 吉川?」
屋上を去り、手すりにつかまりながら階段をのろのろと降りていると、たまたま通りかかった先生が、階段の下から私を見つめた。
「先生……」
「どうした、何かあったか」
きっとひどい顔をしていたんだろう。
先生が心配そうに駆け寄ってきてくれたのと、耐えきれず階段にしゃがみこんでしまったのは同時だった。
「面談室まで歩けるか?」
「うん……」
普段とは異なり、ほとんど人のいない廊下を、黙りながらゆっくり歩く。
すれ違った数人の生徒の視線を感じたけれど、私は顔をあげずに、歩くことだけに集中する。
そうしないと、今にでも倒れてしまうとわかっていたから。
それぐらい、足に力が入らなかった。
「ほら、入れ」
「うん……」
扉を開けてくれた先生に、「ありがとう」と言いながら面談室へ入ると、私は一番近くにあった椅子に座った。
「どうした?」
「翼と、別れた」
俯きながら答える。
先生は驚いたのか、一瞬黙りながら、続けた。
「どうして……?」
「フラれた」
翼は「フッてくれ」と頼んだけど、最終的にフッたのは、彼だった。
「どうしてだろうな……」
ポツリとつぶやく。
「翼のこと、ちゃんと好きだったのに。ちゃんと好きだったはずなのに、当たり前のように、受け入れちゃったな、別れ」
あの時、別れ話をする翼に、「嫌だ」と言いながらしがみついていれば、今でも恋人同士だったのだろうか。
あの時、「私はまだ翼が好きだよ」と伝えていれば、今でも隣に翼がいたのだろうか。
――それは違う。
そんなことをしても、きっと何も意味が無かった。
そんなこと、翼も望んでいなかった。
「……大丈夫か?」
黙りこくってしまった私に、先生は心配そうに声をかけてくれる。
その声は、いつもとは全く違っていて、優しくて、柔らかくて、思わず私は顔をあげる。
すると、先生の真っ直ぐな視線とぶつかった。
ああ、そっか。だからか。
例え今日、翼との別れを回避できたとしても、きっとまた近い未来、同じことが起きる気がしたのは、そういうことなのかな。
“きっと畑中は、俺より沙帆のこと、きちんと見ているんだよ”
翼はああ言ったけれど、私、やっぱりそれは違うと思うな。
翼だって、先生と同じぐらい、私のこときちんと見てくれていたよ。
だって翼、私が自覚するよりも前に、私の気持ち、気づいていたじゃん。