それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

私の弾くピアノ

「寒い……」

12月上旬、初雪が降る中、私は温もりを求めて、学校の最寄り駅から校舎へ駆け足で向かう。

昔は雪が降るだけですごく嬉しかったはずなのになあ。

いつから雪を見るとー寒さを強調させるような気がしてーげんなりするようになったんだろう。

中学生の時?
いや、あの時はまだ雪が珍しくて、積もってほしいと思うぐらい、寒い日は雪が降るのを心待ちにしていた気がする。
じゃあ高校生になってから?

どうでも良いことを考えながら、寒さから逃れるように靴箱へ駆け込むと、ちょうど靴を履き替えていた翼と遭遇した。

「「あっ」」

「……おはよう」

少しの沈黙の後、やっとの思いで私は口を開いた。

「……おう、おはよ」

偶然といえども2人きりで会うのは久しぶりで、少し気まずさを感じる。

翼も同じだったのか、彼はさりげなく、私から視線を逸らした。


「……一緒に教室まで行く?」

「……うん、そうだね」

正直、この非常に微妙な空気のまま一緒にいるのもどうかと思いつつ、それ以上に断り辛くて、私は彼の提案に同意する。

「すぐ、上履きに履き替えるね」

「ゆっくりでいいよ」

相変わらず彼は優しくて、まだ別れてから1か月なのに、なんだか懐かしさを感じた。

……やっぱり、彼の優しさに、当たり前のように触れていたんだな、私。


「沙帆、最近、どう?」

付き合っていた時と同じように、歩幅を合わせてのんびりと教室まで向かう。

「どうって?」

「いや、勉強とか、恋愛とか」

翼の問いかけは曖昧で、きっと何か話題を提供しようとしてくれているんだろうということがひしひしと伝わってきた。

「恋愛は、今はしないよ。それどころじゃないもん」

「そっか」

そうだよな、センター試験まで、後1か月少しだもんな、という翼の言葉にうなずく。

「けど成績は良い感じだよ?」

「本当? それならよかった」

やっと翼が笑う。

それにつられて、私も笑顔になった。

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