それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
翌日、学校に行くと、教室がいつもよりかなりざわついていた。

「美羽、おはよ」

「沙帆!!!!」

美羽は私の顔を見るや否や、挨拶よりも前に、「先生、学校辞めたんだって!!」と告げた。

「え?」

先生が? 学校を辞めた? 先生って誰?

美羽が言っていることがよくわからなくて、私は首を傾げた。

「誰が辞めたの?」

「だから! 畑中先生! 学校辞めたんだって!!」

「畑中先生って……」

あの先生が? 学校を辞めた?

「そんなこと、あるわけないじゃん」

私は笑う。

あの先生が、学校を辞めることなんてあるわけないじゃん。
昨日話した時、学校を辞めるなんて、一言も言っていなかったし。
辞めるならーあの先生が辞めるなんて、そもそもありえない気がするけれどー、きっと事前に教えてくれるはずだ。

「そんなこと、誰が言っているの?」

「本当だってば!! だって」

“先生の机、もう何も置かれていないんだよ”

美羽からその言葉を聞いた時、文字通り、頭が真っ白になる。

「沙帆!!!!」

気が付けば私は教室を飛び出して、職員室へ向かっていた。


先生、急にいなくなったりしないよね?
先生、きっと、いつも通り、職員室にいるよね?
先生、心配して駆け付けた私に、「そんな嘘、誰が言っているんだ?」って、笑い飛ばしてくれるよね?

職員室の扉を勢いよく開け、挨拶もせずに中へ入る。

「ちょっと、君、挨拶をー…」

知らない先生に無礼を咎められた気がしたけれど、私は振り返ることなく、先生の机が見える位置まで進む。


「先生……」

思わず、口元を両手で覆う。

いつも先生が座っていた場所には、美羽が言った通り、先生の私物が何も置かれていない、ただの空っぽの机が置かれていた。


「沙帆!!」

駆け付けてきてくれた美羽が、私の隣に立つ。

「大丈夫?」

「どうして……」

急に胸が苦しくなり、私は胸元をギュッとつかむ。

「どうして……」

思考がまわらない頭で、精一杯考える。

座席移動でもした?

違う……。

先生の隣にある中野先生の机は、そのままだ。

急に違う学年の担任の先生をすることになったとか?

私はぐるっと、職員室の中を見渡して、先生が机に飾っていたラグビーボールの形をした置物を探す。

無い、無い、無い……。

「先生、どこに行ったの……」

「沙帆、ちょっと屋上にでも行こう」

美羽は半強引に私の腕を引っ張ると、職員室から連れ出した。

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