それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「沙帆、風邪ひいちゃうよ……」

「うん……」

そうか、寒いよな。

いくらタイツを履いているといえど、真冬にコンクリートの上に平然と座るなんて、変だよね。
――きっと、『冷たい』と思えないことの方が、変なんだろうけど。

「美羽、お願いがあるんだけど」

「うん……どうした?」

「カバン、持ってきてくれないかな」

「カバン?」

「うん……今日、もう、帰ろうかなって……」

「沙帆……」

来たばかりだし、今日は終業式だけで午前中には終わる。

それでも、先生がもういないという現実はまだ受け止められていないけれどー…先生がやって来ない教室へ行くことを想像するだけで、私は耐えられそうになかった。

「……わかった」

美羽はわずかな沈黙の後、何も言わずに頷いてくれた。

「ここに持ってこようか? それとも、別の場所で待っている?」

ここ、寒いよね……とつぶやく美羽に、「ここで待っている」と即答する。

正直、今は、誰にも会いたくなかった。
――こんな寒い場所、誰も来ないだろうし。

「でも……」

なにか言いたそうな美羽は、私と目が合うと、「わかった」と返事をした。

「すぐに持ってくるから、ここで待っていてね、動かないでね?」

コクンと頷いた私に、「絶対に動いたらダメだよ」と美羽が念押しをする。

「うん、わかっている……」

美羽は私の返事を確認してから、タタッと屋上を去って行った。


「先生、もう、いないのか」

独りになった屋上で、誰もいないことを良いことに、ごろんと寝ころぶ。

「先生とは、もう、会えないのか……」

寂しいな。辛いな。苦しいな。本当にもう会えないのかな。

事の重大さは認識しているはずなのに、どこか冷静に、突き付けられた現実を対処している自分がいて、なんだか不思議な感じがする。
――きっとまだ、受け止めきれていないだけなんだろうけど。

だって、昨日も普通に話したし。

会うのが最後だとにおわせるような発言も、行動もー…

“頑張れよ!”

不意に、先生に昨日の帰り、呼び止められたことを思い出す。

“どうして急に、そんなこと言うの?”

確かに昨日、そう思ったのだ。

先生、もしかしてー…昨日で会うのが最後だってわかっていたから、最後に話しかけてくれたの?

この結論にたどり着いた瞬間、異様なぐらい、胸がドキドキした。


「違うよね……きっといつもみたいな、気まぐれだったよね……」

否定してほしい。

この胸の騒ぎは、まるで「そうだよ」と、私の直感が告げているみたいでー…
「違うよ」って、先生じゃなくても良いからー…誰かに否定してほしい。

「誰か……」

そう呟いた時、屋上の扉が開いた。
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