それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「翼……」

「横尾から聞いた。大丈夫か?」

翼は、のっそり起き上がって座った私の隣に、私のカバンを置くと、ゆっくりと私の前に座った。

「寒いだろ。風邪、ひいたらダメだから……」

翼は自分のジャケットを脱ぐと、私の肩にかけた。

「どうして……?」

「ああ」

翼は、言葉足らずの私の質問の意図を理解してくれたみたいだった。

「今日学校に来たら、畑中の話、聞いてさ。沙帆のことが心配で教室に行ったら、沙帆のカバンを取りに来た横尾に会った。本当は横尾がカバンを届けようとしていたんだけど、横尾、今日日直みたいで、ちょうど中野に呼び出されてさ。だから、俺が代わりに持ってきた」

「そっか……ありがとう……ごめんね、迷惑かけちゃって」

「迷惑とか思ってないから。気にすんなよ」

翼が微笑む。

「俺とお前の仲だろ。今更気なんて遣うなよ」

「ありがとう……」

本当に優しいよな、この人は……。

けれど、いつまでも、翼に甘えるわけにはいかない。

前までは当然のように受けていたこの優しさも、それは翼の”彼女”だったから。

今は彼の彼女ではないんだから、しっかりしなきゃ……。

「もう、大丈夫だよ。私も家に帰るし、翼も教室に戻って」

私の言葉に、翼は呆れたようにため息をついた。

「全然大丈夫そうには見えないんだけど……」

「……大丈夫だよ」

「……本当に?」

全てを見透かされるような真っ直ぐな視線に、私は思わずうつむく。


「……だよな。大丈夫じゃないよな」

翼は「ちょっと待っていろよ」と言いながら、立ち上がる。

「温かい飲み物買ってくるから。ここで待っていろよ、な?」

「ありがとう……」

「動くなよ?」

「うん……」

さっき、美羽にも同じようなことを言われたな、と思いながら、私は頷いた。



独りきりの屋上で、なんとなく持ってきてもらったカバンに手を伸ばしたとき、私はふと気になり、勢いよくカバンの中からノートを探す。

「あった……」

昨日返却された、毎日課題のノート。

震える手で、文字が書かれている最後のページまでめくる。
< 114 / 125 >

この作品をシェア

pagetop