それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
二十時。最終下校時間が訪れたことを知らせるチャイムが静かな校舎に鳴り響くと、教室で向かい合って自習していた私と美羽は、同時に教科書から顔をあげた。

「もう、こんな時間か」

「早かったね」

大きく伸びをすると、背中がポキポキと音を立てた。

「そろそろ帰りますか」

「そうだね」

私たちは机の上に広げている教科書を閉じると、机の横にかけているカバンになおしていく。


「今日、自習付き合ってくれてありがとうね」

おかげで英語、ちょっと理解出来た、と美羽が笑顔を見せる。

「お役に立てたのならよかった」

「うん、まあ試験で問題が解けるかどうかは別問題だけど」

「えー、せっかく教えたんだから、頑張ってよ」

「努力はする」

ふざけたやりとりと笑い声が、疲れた身体と頭を癒す。


「また明日も残ってくれる?」

カバンを持って二人並んで教室を出ると、美羽が私の顔を覗き込んだ。

「うん……いいよ」

結局、なんだかんだ集中できたし。
きっと家で、親の気配を感じながら勉強するよりも、捗ったと思うし。

「やったー!! ありがとう!!」

無邪気に喜ぶ美羽が可愛くて、思わず、ふふっと笑ってしまう。


「あ、ねえ、三組寄って行かない?」

階段を降りようとしたとき、美羽が私の腕を引っ張る。

「三組? どうして?」

「ほら、畑中先生がいるよ」

「えー…嫌だよ、もう帰ろう」

「どうして? いいじゃん、挨拶ぐらいしてから帰ろうよ」

「あの人、なにかと面倒なんだもん。できるだけ絡みたくない」

次は私が美羽の腕を引っ張り、少し強引に靴箱へ向かわせる。

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