それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
言葉に出した瞬間、自分の意思とは反して、怒りで身体が震える。

ああ、もう、嫌だな。
この人の言うことなんか、いつも通り無視したら良いのに。

そう思っていても、なぜか今日は、止められなかった。

「『面倒だって言うな』って言うんだったら、そっちがイライラさせないでよ」

ムカついて、イラついて、けれどなんだかちょっと悲しいような気もして、気が付けば目には涙がにじんだ。

「結局私をイライラさせてるのは、あんたたち大人じゃん」

こんなこと言っても仕方がないのに。

けれど一度口を開いてしまえば、もう続けるしかなかった。

「そもそも、あんた、先生でしょ。生徒にイライラさせるなんて、先生、失格なんじゃないの」



「……ごめん」

誰も通らない、静かな廊下にポツリと、一粒の涙が落ちる。

「今のは流石に言い過ぎた、ごめん」

自分でも驚くほど弱々しい声が、耳に響く。

情けない。
勝手にイライラして、先生に怒鳴って、言い過ぎたと反省して、涙まで流しちゃって。

ああ、もう、私、一人で何しているんだろう。
本当のバカは私かもしれない。


「吉川、おいで」

先生はさっき閉めようとしていた理科室のドアを開けると、私の肩を抱いて、理科室へ入るよう促す。

いつもなら抵抗する場面なのに、もう今は抵抗する元気も気力も無くて、私はおとなしく理科室へ入った。

「ほら、座れ、ここ」

先生がひいてくれた椅子に座る。


気まずい。

さすがに先生、怒ったかな。

怒るよね、“先生失格”まで言っちゃったし。

はあ、とため息をついてしまったのと、大きな手が私の頭を撫でたのは、同時だった。

「なにも謝らなくて良い」

先生は私と向かい合うように座ると、もう一度ゆっくり頭をなでた。

「吉川が謝ることなんて何もない。だから、謝らなくて良いよ」

< 25 / 125 >

この作品をシェア

pagetop