それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
その言葉に、ポロポロと、私の目からは涙が零れ落ちる。

先生はポケットからハンカチを取り出すと、私の手にハンカチを握らせた。

「何か、あったのか」

普段とは違う、先生の優しい声が、耳に届く。

「お前が怒るなんて、珍しいじゃん。何か、あったのか?」

“先生には関係ないでしょ”

そう言ってやろうと思ったのに、口に出たのは、全く別の言葉だった。

「どうして?」

「ん?」

「さっきひどいこと言ったのに。どうして……怒らないの? どうして……優しくするの?」

嗚咽の混じった私の言葉に、先生がふっと笑うのを感じた。


「“面倒くさい、面倒くさい”って連発するけど、お前が本当はすごく頑張り屋さんだって、知ってるからかな」


先生から出た思いがけない言葉に、私は顔をあげる。

すると先生は、「泣くなよ」と言いながら、私の背中をさすった。

先生の目には、見たことの無いような、心配の色が浮かんでいて、気が付けば私は、口を開いていた。


「……先生、ごめんなさい」

「だから、謝らなくていいってば」

先生は苦笑してから、もう一度「何か、あったのか?」と尋ねた。


「数日前から……家に帰るのが嫌なの……。両親と顔を合わせるのが、嫌なの……」

声に、涙が混じってしまい、私は一度大きく深呼吸をした。

「けど、本当は、数日前からじゃなくて、なんかもうずっと、嫌で、しんどくて」

自分の気持ちを、自分が無理矢理胸の奥にしまい込んでいた気持ちを、
この人に話す日が来るとは、思わなかったな。
そもそも、誰かに、聞いてもらおうだなんて思う日が来るなんて、思わなかったな。

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