それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「……どうして? どうして、親と会うのが嫌なの?」

先生は私の言葉に驚いたのか、少し掠れた声で尋ねた。

「……お姉ちゃんと、比べられてばかりだから」

「お姉ちゃんと?」

「うん……」

黙り込んだ私に、先生は、「もうちょっと詳しく話せる?」と尋ねた。

「お姉ちゃん、この学校の卒業生で……」

話し出したその時、また涙がこみあげてきて、私は黙り込んだ。

同時に、私の話を遮るように、次の授業の始まりを知らせるチャイムの音が響き渡る。 


「授業、行かなきゃ……」

立ち上がろうとした私の肩を、先生は押さえた。

「行かなくていい。授業なんて、行かなくて良い」

「けど」

「授業より大切なものだってあるんだ。行かなくて良い。それよりも、お前の話、聞かせて」

「……行かなくて良い、って」

思わず私は笑ってしまった。

「先生、やっぱり、“先生”っぽくないね」

「うるせー、勉強がすべてじゃないんだよ」

先生は私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


ああ、よかった。
良いタイミングでチャイムが鳴ってくれたから、涙も引っ込んでくれた。

私は少しだけ、冷静さを取り戻した。

「そういえば、先生、授業は……?」

「俺は、次は空き時間。だからお前の話、いっぱい聞いてやる」

それで?と先生は続きを促した。


「お姉ちゃん、国立大の医学部に、現役合格したの。すごく優秀だったから……学校でも家でも、お姉ちゃんと比べられてばかりで、しんどいの。『お姉ちゃんは賢いのに、妹は……』って、ね」

自嘲気味に笑う。

「中学の時からそうだったから、慣れたつもりだったんだけどね。けど、受験が近づくにつれて、言われる機会が増えちゃって。いつのまにか、親にも先生にも、声を掛けられるだけでイライラしちゃって」

先生が何か言いたそうにしていることに気づきながらも、私は一気に続けた。

「気が付けば、全てのことにイライラして、全てのことが面倒に感じちゃって……こんなのダメだって、わかっているんだけど……どうしたらよいか、わからなくて……」

「もう良いよ、言わなくて、良い」

語尾に涙声が混じったことに気づいたのか、先生は私の言葉を遮った。

「吉川」

先生の呼びかけに、顔をあげる。

「辛かったな……」

話してくれて、ありがとうな、と言った先生の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。

「ごめんな、気づいてやれなくて……」

先生は文字通り、グスッと鼻をすする。
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