それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「お前、なにかと戦っているというか、なにかに挑んでいるような表情、よく見せるから……もしかしたら悩んでいることでもあるのかなって気になっていたんだけど……ごめんな、そんなに思いつめるまで悩んでいたのに、今まで気づいてやれなくて」

どうして……この人が謝るんだろう。

「先生は何も、悪くないじゃん……」

「いや……気づいてやれなかった。俺、お前のこと気にしなって、見ていたはずなのに」

「先生は」

大きく深呼吸をしてから続ける。

認めるのは嫌だけど。

それでも、今の先生の言葉を聞いて、認めざるを、得なかった。

「ちゃんと見ててくれたじゃん。私が笑ってないのとか、何事にも投げやりなところとか、見てくれてたじゃん。ちゃんと……見てくれてたよ」

最初から、先生のことが、苦手だった。

どうしてなのか。今まで理由はわからなかったし、そもそも考えたことすらあまりなかったけれど……今、気づいた。

先生は、他の先生と違って、いつも私を見てくれていたから。
先生は、いつも、真っ直ぐに私を見つめるから、全てを見透かされそうでー…先生から視線をむけられるたびに、なんだか落ち着かなかった。


「先生」

先生は”先生”らしくないけれど。
お調子者だし、やっぱり面倒だなって思うところもたくさんあるけれど。

「ありがとう。私のこと、見ててくれて」

先生は私の言葉にポロッと涙を流すと、拳でグイッと拭う。

それはまるで、小さい子どものような仕草で、思わず私は笑った。


「お前なあ、お前のこと思って泣いているのに、どうして笑うんだよ」

「だってさあ」

拗ねた顔も子どもっぽくて、私はケタケタと笑った。

「このヤロー、髪の毛、ぼさぼさにしてやる!!」

「ちょっと! やめてよ! セクハラ!」

「なんとでも言え!!」

手加減無しに攻撃してくる先生から逃げようと、私は席から立ち上がって理科室を走り回ると、先生も追いかけてきた。


「なあ、吉川」

息切れした先生が、教室の隅から私を呼ぶ。
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