それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。

彼氏の夢と、遠距離恋愛

「ねえ、今日、児玉と帰るんだよね?」

中間試験が終わって一週間程経った日の放課後。
帰り支度をしている美羽に声を掛けられる。

「うん、そうだよ」

「いいなあ、私も彼氏、欲しいなあ」

美羽が頬杖をつきながら嘆いた。

「美羽は、選び放題じゃん。選ばないだけで」


世間では、「女子の『可愛い』は当てにならない」とか言われたりするけれど、美羽はお世辞抜きで、とっても可愛い。
色素が薄めのサラサラのストレートへアで、髪色と同じ色の瞳を持つアーモンド形の眼。
薄めの唇は、リップを塗っていなくてもうっすらとしたピンク色。
とても女の子らしい見た目の上に、少し高めの声が、聞き手に心地良さを与える。
それになによりも、本当に優しい。

きっと美羽の理想がもう少しだけ現実味を帯びていたら、すぐに彼氏なんて出来ると思う。
――実際、あからさまに美羽に好意をよせている男子だって、同じクラス内にいるし。


「そりゃ私にだって、理想はありますから」

「美羽は理想が高すぎるんだよう」

「それは本当によく言われる」

美羽の答えに、二人で目を合わせて笑い合う。

「じゃあ、また明日ね」

「うん、またね」

今日のデートの様子、明日聞かせてね、という美羽の言葉にうなずくと、私は教室を出た。


「翼、お待たせ」

教室の後ろのドアにもたれかかりながら、スマートフォンを操作していた翼に声をかける。

「ごめんね、結構待たせちゃったよね」

「ううん、俺のクラスも今終わったところ」

ほら、行こうぜ、という翼の言葉に頷き、一緒に靴箱へ向かう。

「一緒に出掛けるの、久しぶりだな?」

「そうだね、一応、受験生だし」

「だよなあ、早く受験、終わって欲しいな」

「それ、同感」

翼と一緒に苦笑する。

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