それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「確かに沙帆、今回成績良かったな」

学校を出て近くのカフェに入り、店員さんに注文をするや否や、翼はメニュー表を片付けながら切り出した。

「あー、うん。翼には敵わないけどね」

今回、翼は、学年で三位だった。

「翼は、本当に凄いなあ」

どうすれば毎回毎回、あんなに良い成績をおさめられるんだろう。
学校で自習している姿はよく見るけれど、きっと家でも、いっぱい勉強しているんだろうな。

「さすがだよね、翼。なんだか私まで誇らしくなっちゃったよ」

えへへ、と笑う。

けれど翼は、私とは打って変わって、神妙な顔つきをしていた。


「沙帆さ」

翼は、手元にあったお水をゴクゴクと飲み干した。

「最近、雰囲気変わったよな」

「……そう?」

あまり自覚が無くて、私は首を傾げた。

「なんていうか……明るく、なった?」

「……明るく?」

「うん……いや、元から明るかったけど、なんていうか、元気って言うか……」

よくわかんないよな、ごめん、と翼が頭を掻く。


「……畑中の、おかげなのかなって」

少しの沈黙の後、翼は続けた。

「実は何度か、沙帆と畑中が職員室や教室で話しているところを見たんだけど……。俺、あんな沙帆、知らないなって、何回も思った」

「それは、どういう……」

“あんな”?
“あんな”とは、どんな私なんだろうー…。

「んー…なんか、あれだけ沙帆が人と言い合ったりしているところ、見たことなかったっていうか……。口調は怒ってるんだけど、沙帆も畑中も、楽しそうっていうか、心を開き合っているっていうか……」

翼は両手で頭を抱え込む。

「さっきも、『数学の解き方教えてくれてありがとう』とか言ってたから……。今回、沙帆の成績が伸びたのも、全部畑中のおかげなのかなって……」

「それは……」

違うとも、そうだとも、言えなかった。
性格とか雰囲気が変わったっていうのは正直自分ではわからない。

それでも、成績が伸びたのは、全部ではないけれどー…先生の存在、大きかったかもしれない、と思ったから。

なんだかんだ、遅くまで自習付き合ってくれたし。
なんだかんだ、毎日、解き方のアドバイス、書いてくれたし。

「沙帆」

翼が顔をあげる。


「俺のこと、好き?」

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