それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「翼……」

“好きだよ”、この一言を伝えても、今は何も翼に響かないような気がして、私は翼から視線を逸らしてしまった。

翼のことは、好きだ。
それは、嘘ではないし、断言できる。

優しくて穏やかで、いつもストレートに気持ちを伝えてくれて、努力家で、スポーツも万能で……
この人と付き合えた私は、本当にすごくー月並みな表現だけどー幸せだと思う。

実際、翼は、性別問わず、多くの同級生から人気で、そして尊敬もされていて、
どうしてこんなに素敵な人が、私のことを好きでいてくれるんだろう、って思ってしまうほど。

けれど、

「一番に好き」だけど、この状況だからか、
「好き」だけど、翼が求めている「好き」とは違う様な気が一瞬してしまったからか、
どちらかはわからなかったけれど、今、“好きだ”と伝えても、翼に伝わる気がしなかった。

――それでも、「好き」だと口にすることに、意味があるのかな。


「ごめん!!!」

翼は、眉尻を下げながら笑った。

「こんなこと急に聞かれても、困っちゃうよな」

「ううん……」

「勉強のし過ぎで弱ってんのかも、俺」

翼は、ちょうど運ばれてきたカフェオレに手を伸ばした。


「沙帆は、志望校、決めた?」

「うーん……正直、まだちょっと迷ってるんだよね……」

「志望校を? 学部を?」

「どっちも、かな」

曖昧な答えしか伝えられない自分が情けなくて、思わず自嘲する。

私はこのみじめな気持ちから逃げるように、口を開く。

「翼は? K大の工学部だよね?」

「俺、実は、T大もいいかなって思い始めた」

「T大!?」

「おう。実は、T大の方が、学びたいことを学べるみたいなんだよな」

「そうなんだ……」

「まあ、模試でもずっとC判定だから、受かるか微妙だけどな」

「受かるよ、翼なら!!」

翼の言葉に被せる。

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