それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「今日から3泊4日で沖縄を訪れますが、これは単なる旅行ではありません。修学旅行と言う、大事な課外授業でありー…」
いつも通り、ちょっぴり長めの“有難い”中野先生の話を上の空で聞きながら、私はカバンの中でスマートフォンの電源をこっそりつける。
沖縄、楽しみだなあ。家族で数年前に行って以来だもんなあ。
沖縄と言えば、やっぱり、ブルーシールだよね。
絶対食べたいな。食べられるとしたら、3日目の自由行動の日かな。
何味にしよう。数年前は確か、マンゴーを食べたなあ。
私は、スマートフォンで、ブルーシールで販売されているアイスクリームの味を調べる。
「俺、やっぱりチョコ系が良いかな」
「へっ!?」
耳元で急にささやかれた声に驚いて、私は思わず素っ頓狂な声をあげた。
「どうかした?」
前に座っていた美羽が振向く。
「ううん! 何でもない!」
「そう? それならいいけど」
美羽がもう一度前を向いたことを確認してから、私はチラッと周囲を見渡すと、何人かの生徒と目があった。
最悪……。恥ずかしい……。
私はため息をつきながら、顔を伏せた。
「なあなあ」
そんな私の様子を気にすることなく、私を驚かせた犯人は、私に話しかけた。
「やっぱりチョコが美味しそうだよなあ」
「あのねえ」
恥をかかされた恨みを込めて、思いっ切り睨んでやろうと先生を見上げる。
すると先生は、目をキラキラさせながらーまるで、「1つだけお菓子を買ってあげるよ」と言われた幼稚園児のようにー私の手元を見ていた。
この人、一体何歳児なのよ……。
私はすっかり睨む気力もうせて、小声で先生をたしなめた。
「驚かせないでよ」
「ごめんごめん、美味しそうなアイスクリーム、見えたから」
「先生、一応“先生”じゃん。ちゃんと中野の話、聞けば?」
「俺は“先生”だから、聞かなくていいの。それより、お前、何味にすんの? やっぱりチョコ?」
先生はココアクッキーが入ったチョコレートを指差す。
「なになに、何の話?」
私と先生がコソコソと話していたことが気になったのか、美羽が前を見ているふりをしながら、会話に参戦する。