それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「学校に行くことに、疲れちゃったんだって」
後から本人に聞いた話だけど、と先生は付け加えた。
「その子、有名な進学校に通っていたんだ。最初は入学できたことが嬉しくてとても頑張っていたみたいなんだけど、毎日勉強して、常に成績は順位がつけられて、そんな生活が、しんどくなっちゃったんだって」
「……そっか」
今、私はその子と似たような環境にいるけれどー…確かに、これが中学生の時だったら、辛かっただろうな。
勉強ばかりに追われて、友達とも競い続けるとなるとー…心が休まる場所も時間も、無いだろう。
私だって、“成績に順位がつけられることが当たり前”だと割り切ることが出来るようになるまで、周りの生徒は、“仲間”であると同時に、それ以上に、いつも順位を競い合う“敵”だと思ってしまっていた。
特に高校一年生の時は、普段は確かに”友達”なのに、試験前になると距離を感じてしまっていたし、自分からも距離を置いていたように思う。
今でこそ、“戦友”と思えるようになったけれど、それでも、“敵”という存在からお互いを切磋琢磨できる“戦友”という存在になるなんて、一朝一夕で出来るわけではない。
「いじめられていた、とかではないみたいなんだけど、本人はもう学校に行くこと自体がしんどかったみたい」
「そうだろうね」
私は、見も知らないその子の、苦しみや、孤独感、周囲への不信感に、共感してしまった。
「その話を聞いた数日後、たまたまその子の母親に会って、久しぶりに遊びに行ったんだ。そしたら、もう、その子、本当に変わっちゃっていて……」
“抜け殻、って、こういうことを言うんだろうなって思った”
先生が苦しげに吐き出した言葉は、その子がいかにひどい状態だったのかを物語っていた。
「それからかな。その子のことが凄く気になって、頭から離れなくなっちゃって……週1ぐらいで、また遊びに行くようにしたんだ。
ずっと会っていなかったし、その子も、その子の母親も、“今更”って思っていたかもしれないけれど、幼い頃はよく遊んでいたし、どうしても他人事だとは思えなくて」
「優しいね、先生」
「そうか? 俺は」
自分を過信しすぎかもしれないけれど、と前置きをしてから、先生は続けた。
「もし、俺がもっと会いに行っていたら、その子は、苦しまずに済んだんじゃないかって思う」