それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「先生と……関わらないでほしいってこと……?」

「うん」
私の問いかけに、翼は即答する。

「関わらないでほしいって……どういうこと……?」

「必要以上に、話さないでほしいっていうこと」

翼は冷静に、躊躇うことなくはっきりと私に告げる。

「どうして……?」


「俺が見たくないからだよ!!」


初めて聞く翼の怒鳴り声に、私の身体は意図せずこわばった。

「沙帆、ちょっと冷静になれよ。どう考えても、畑中と沙帆、教師と生徒の関係、超えているだろ」

翼は、震える声で、吐き捨てる。

「そもそも畑中、教師としてアウトだろ。特定の生徒と『仲が良い』って噂されること自体、教師としておかしいだろ」

翼の言葉に戸惑って視線を逸らすと、握りこぶしを作っている翼の手は震えていて、その時私は初めて、翼が“怒っている”ということを、理解した。

「俺、畑中が、他の女子に、沙帆みたいに親しげに話しかけているところも、頭をなでているところも、見たことない。なんなら、さっきみたいに、ハイタッチするところだって見たことない。
これって、畑中が沙帆に、“生徒”以上の感情を抱いているからじゃないのか?」

「翼……それは、誤解、だよ。先生は、」

「何が誤解? 畑中と沙帆が仲良いこと? 実際に、俺以外の奴にも、『畑中と沙帆って距離近いよね』って、噂されているのに?」

「それには理由があってー…」

「理由があっても、先生と生徒だぞ? 先生である以上、生徒に対しては、平等に接するべきなんじゃないのか」

翼はガシッと頭を掻きながら、「おかしいのは誰なのか、考えろよ」とつぶやく。

「そもそも沙帆にだって、問題はある。今日だって、わざわざ畑中を探し出してまで、報告するようなことなのか? 畑中と会った時に、『成績良かったよ』って言えば済む話じゃないのか?」

「それはー…」

そうかもしれない。
そうかもしれないけれどー…嬉しかったから。

数学の先生に何度質問しても理解しきれなかった問題をーどうしても理解出来なくて、何度も質問してしまい、呆れた表情を見せられた問題をー先生は何度も丁寧に説明してくれて、先生のおかげでやっと理解出来てー…試験でもきちんと解けて、嬉しかったから、先生に早く伝えたかった。

数学で過去最高の点数を取れたのは、紛れもなく先生のおかげだし。

けれど。
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