それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「翼」

怒りを鎮めるように目を瞑りながら空を仰ぐ彼に、私はそっと声をかける。

「ごめん、嫌な思い、させて」

なにから話せば、伝わるかな。
どうやって説明をすれば、伝わるかな。
春の陽だまりのように穏やかで明るい翼をここまで怒らせてしまった自分が情けない。

とりあえず、どうして先生に一刻も早く伝えたかったのか、説明するべきかな……。

「あのね、実はね、」

「ごめん」

私の話を遮るかのように、翼は言葉をかぶせた。

「怒鳴って、ごめん」

「あ、ううん、悪いのは私だから……」

突然投げかけられた謝罪の言葉に、私は大きく横に首を振る。

けれど、翼は、「ちがうんだよ」と否定した。

「本当は、嫉妬していた」

翼は弱々しく笑う。

「さっきもさ、沙帆がすごく嬉しそうに畑中に報告している姿見て、嫉妬したんだ。あんなにも嬉しそうにはしゃぐ沙帆を見たのは久しぶりだったし……何よりも、嬉しいことがあった時、沙帆が1番に報告したいのは、俺じゃなくて、畑中なんだ、って。そう思うと、なんか、嫉妬しちゃってさ」

嫉妬なんて醜いよな、という翼の言葉を、私はもう一度激しく左右に首を振って否定する。

「もちろん、畑中の行動はおかしいと思うよ。沙帆にも、畑中の行動は異常なんだって、気づいてほしかった気持ちもある。けれど、それと同じぐらい、畑中に嫉妬して、畑中が嫌だった気持ちもあった」

翼は大きく深呼吸すると、寂しげに微笑む。

「沙帆、わがままだってわかっているんだけど」

前置きをした後、翼は真っ直ぐと私を見つめて、迷いなく、続けた。


「もし、まだ俺のこと、少しでも好きなら、畑中と距離を置いてほしい」

「翼……」

翼の目には、不安や心配とは違う、なにかーまるで、長年憎しみを抱いていた相手に対する、敵意のようなものーが浮かんでいる。

こんな翼……見たことない。

私は、戸惑いから、翼の視線から逃げるように、うつむく。

そんな私と翼の間を、季節外れの冷たい風が、吹き荒れた。

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