それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「それなら、私からも質問させてもらうけれど」

一瞬だけリビングを見てから、私はお母さんをもう一度見つめた。

「高校1年生の夏、当時考えていた志望校と将来の夢をお母さんに話した時、お母さん、なんて私に返したか覚えている?」

忘れもしない、ちょうど今から2年前。

四者面談を翌日に控えた日の夜、クーラーが効いたリビングで、お母さんに話したのだ。


数十秒か、1分程かわからないけれど、しばらくたっても全く口を開かないお母さんにしびれを切らして、私は別のことを問いかける。

「そもそも、私と、そんな話をしたこと、覚えている?」

覚えていてほしい。
覚えていてほしいけれど、この沈黙は、きっとそういうことを、意味しているのだろう。

「覚えていないよね」

覚えていないだろうとは思っていた。

それでも、やっぱり覚えていなかったことに、すこしだけ傷つく。
そして、傷ついている自分に、とても驚く。
――お母さんに何か求めることなんて、とっくの昔に、辞めたはずなのにな。

「そんな仕事、やめておきなさい、って言ったんだよ。『そんな誰でも出来るような仕事、やめておきなさい』って」

当時お母さんから放たれたのと、全く同じ言葉を口にする。

「それだけじゃないよ」

きっと覚えていないよね。本心だけど、何気なく放った言葉だろうから。

「『お姉ちゃんみたいに、きちんと世の中の人に役立つ職業に就きなさい』って、言ったんだよ。だから」

「それは、だって」

「ねえ」

ああ、もう、本当に、こういうところなんだよな。
思わず私はイラついて、舌打ちをしてしまった。

「どうしていつも、そうやって遮るの?」

決して大きな声ではないけれど、怒りを含みながら、お母さんに言葉をぶつける。

「どうしていつも、最後まで話を聞いてくれないの?」

いつも、いつも。
どうしていつも、最後まで言わせてくれないんだろう。

「……いつも、じゃ、ないでしょ」

お母さんの声は弱々しくて、けれど、気持ちをぶつけても交わされたことに無性に腹が立って、気が付けば、私はお母さんを睨みつけていた
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