それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「この際だから、はっきり言うけど」
悔しくて、ムカついて、悲しくて。
けれど、お母さんには、もう涙すら見せたくなくて、私は涙がこぼれないように目に精一杯力を込めながら、続けた。
「ずっと、お姉ちゃんと比べられることが、嫌だった」
「なにかあるたびに、なにか話すたびに、いつも“お姉ちゃんは、お姉ちゃんは”って。お母さんたちがお姉ちゃんのことを大好きなことは知っているよ? それでも、正直、私からしたら、“お姉ちゃんがなに?”って感じだった」
きっと両親にとって、お姉ちゃんは“理想的な子ども”だったのだろう。
勉強だって、スポーツだって、全てにおいて卒なくこなすお姉ちゃんは、私から見てもかっこよくて“憧れ”だったんだから、きっと両親にとっては“誇り”だっただろう。
――それでも、私とお姉ちゃんを比べ続ける必要って、あった?私とお姉ちゃんを比べることで、私とお姉ちゃんにとってメリットって、あった?
もしかしたら、お姉ちゃんと比べることで、お姉ちゃんを見習ってほしかったのかもしれない。
けれどね、残念ながら、私はそこまで出来た人間にはなれなかった。
むしろ、今は、お姉ちゃんの存在すら、そんなに良く思っていないよ。
お姉ちゃんは何も悪くないって、わかっているんだけど。
「お母さんは、先生のこと、『なにもしらない』って言ったけど」
深く息を吸い込むと、一気に吐き出した。
「先生はちゃんと、私のこと、見ていてくれたよ」
ずっと無表情だったお母さんが、すこしだけ驚きの表情を浮かべた。
「誰と比べることもなく、私のこと、見ていてくれたよ。頑張ったときは、褒めてくれた。辛い時は、話を聞いてくれた。いつも、私という人間だけを見てくれていた」
例え、翼と一緒にいる時でも。
結果を見ると、圧倒的に私は劣っているのに、それでも『比較する必要なんてない』と言ってくれた。
頑張る私を応援してくれて、頑張った私を褒めてくれた。
「それだけじゃない。話を遮られることに疲れてしまって、自分の気持ちを口にすることすら諦めてすべてに投げやりになっていたことに、気づいてくれた。そして、話を聞いてくれた」
何度も何度も、話しかけてくれた。
それこそ、最初はしつこくて嫌で仕方がなかったけれどー…少しずつ、先生と話す時間は、憂鬱じゃなくなった。
それは、いつも先生が、しっかりと私の話に、耳を傾けてくれるから。
当然のことのようで、当然じゃなかったことを、先生がしてくれたから。
「だから」
自分の胸の内を伝えきるとなんだかスッキリして、お母さんに背中を向けた。
「先生のこと、悪く言わないで。確かに、まだ先生とは出会って3か月だよ。だけど、私、先生にいっぱい支えてもらった。だから、先生のこと、悪く言わないで」
まだその場にお母さんがいるとわかりつつも、振り返ることなく、私は一気に階段を駆け上った。