それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「せんせー…」

バタバタと慌ただしく教室に入ってきた先生を呼ぼうとしたとき、突き刺さるような視線を感じる。

「翼……」

ハッと彼を見ると、なにかを訴えるような、なにかを願うようなー…なんとも形容し難い表情をしていた。

“もし、まだ俺のこと、少しでも好きなら、畑中と距離を置いてほしい”

急に脳内で、屋上で真っ直ぐに告げられた言葉が繰り返される。

「えっと……」

この場で、翼がいるこの場で、先生と話すのは良くないよね……。

どうしよう。

先生の呼びかけを無視する?

けれど無視しても、事情を知らない先生は不審に思うだろうし……なによりも諦めずに話しかけてきそうだ。

どうしよう。

いっそのこと聞こえなかったフリをする?

いやいや、翼だって絶対に聞こえているだろうし……そもそもこんなに大声で名前を叫ばれて「聞こえなかった」は、不自然過ぎるだろうし。

どうしよう。

とりあえず翼に帰ってもらう?
……それこそ、翼のこと「邪魔だ」って言っていることと同じになっちゃうよね。

どうしよう、どうしよう、そう悩んでいる間に、先生は私のところまでやってきた。


「吉川! ありがとう!」

「え、なにが……?」

話が読めずに、私はキョトンと首をかしげる。

「これだよ、これ!!」

先生は、背後に隠し持っていたピンク色のA4のノートを、私の目の前で「ジャーン!」と効果音付きで掲げた。

「俺、嬉しくてさあ。お前がコメント書いてくれるのなんて、初めてじゃん?!」

【先生、昨日はありがとう。面談で庇ってくれて。嬉しかった】
【お礼になるかわからないけれど、今度、ピアノ弾いてあげる。何の曲が良いですか?】

「あ、それは……」

今日、課題ノートを提出する前に、先生宛にメッセージを書いておいたのだ。

きっとそのことを、言っているのだろう。

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