それでも私は、あなたがいる未来を、描きたかった。
「いつも【はい】とか【うん】とか……そんなのしか書いてくれないのにさ! お前からコメント書いてくれる日が来るなんて! 俺、頑張ってよかった!」

「先生、ちょっと落ち着いてよ」

興奮気味に話す先生を諭す。

「先生、あのさ、」

さすがにこの話を翼に聞かれたくなくてー翼も聞きたくないだろうしー、私は慌てて、口の前で人差し指を立てる。

「え? なに?」

先生は、意味が分からなかったのか、不思議そうに聞き返した。

「その話、後で、でも良い?」

お願い、と、目で訴えかける。

「どうして?」

先生はまたもや、聞き返してきた。

本当に空気読めないんだから。
そもそも、こんなプライベートなこと、大声で話さないでよ……。

私は出そうになったため息をこらえながら「とりあえず、後で話そう」と返す。

「だから、どうして?」

「どうしてもー…」

「なに、畑中と沙帆、交換ノートでもしているわけ?」

翼はーいつの日かと同じようにー普段とは似ても似つかない、低い声で、私に尋ねた。

「いや、交換ノートなんてしているわけないじゃん」

私は慌てて否定をする。

「課題ノートに、ちょっとだけ、コメント書いただけ」

「沙帆が、コメント書いたってこと?」

「え?」

「だから、沙帆が、畑中にむけて、コメント書いたってこと?」

「……今日は」

私の答えに、翼は呆れたように息を吐きだすと、私が握りしめていた模試の成績表を素早く奪い取った。

「俺、教室に戻るわ」

「翼、待って」

立ちあがった翼に縋るように、彼の腕を掴む。

しかし、彼は、力を込めた手を、優しく、けれど強く、引きはがした。

「俺、帰るわ」

もう一度彼は吐き捨てるように言うと、自分が座っていた椅子を乱暴に、元にあった位置へ戻した。

「ごめん……」

私の謝罪の言葉はきっと聞こえたはずなのに、翼はまるで私を拒絶するように、全く反応しなかった。


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